うつ病とは

うつ病のイメージ

一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態です。
強い気分の落ち込み、興味や喜びが消失、否定的(悲観的)な物事の捉え方になる、などネガティブな気持ちに心が覆われている状態で、さらに不眠、食欲低下などの症状が2週間以上継続し、1日中その状態が続いている場合にうつ病と診断されます。

発症メカニズムは現在、完全に特定されたわけではありません。
一説では、脳内で働く三大神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)などのバランスが崩れることで起きるのではないかと考えられています。(セロトニン仮説)

うつ病の患者さんによくみられる症状

  • 悲しく、憂うつな気分や沈んだ気分になる
  • 何事にも興味がわかず、楽しくない
  • 疲れやすく、元気がない(だるい)
  • 気力、意欲、集中力の低下を自覚する(何をするにも億劫と感じる)
  • 寝つきが悪くて、朝早く目がさめる
  • 食欲がわかない
  • 人に会いたくなくなる
  • 夕方より朝方の方が気分、体調が悪い
  • 心配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする
  • 失敗や悲しみ、失望から立ち直れない
  • 自分を責め、自分は価値がないと感じる など

うつ病のタイプについて

うつ病は大きく3つのタイプ(心因性うつ病、内因性うつ病、身体因性うつ病)に分類されます。心因性うつ病は、患者さんご本人様の性格や環境(引越しや転勤 など)をきっかけに発症します。このうつ病は、真面目、責任感が強いといった性格の方によく見受けられます。また内因性うつ病は、患者さんご自身の体質や遺伝的要素が引き金となって、脳内物質が急激に変化することで発症するタイプです。そして身体因性うつ病ですが、これはある病気(アルツハイマー型認知症や脳卒中などの脳疾患、甲状腺機能低下症、がん、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症 等)など)や薬剤の使用が原因で発症するうつ病になります。

このようにうつ病は、先天的要因や脳の機能的要因などによって発症するわけですが、どのタイプであっても大きなストレスが加わった後に発病しやすくなると考えられています。

高齢者のうつ病

高齢者のうつ病には不安焦燥感が強いタイプ、身体的な不定愁訴(身体的な検査を行っても、原因がはっきりと特定できない身体の諸症状)が主のタイプなど、若年者とは違った症状が出現する場合もあります。
特に気をつけたいのは一見認知症のように見えるタイプです。
高齢者がうつ病を発症した場合、認知機能の低下やもの忘れが見られるようになり一見認知症のようにみえる状態を呈する事があります。(うつ病性仮性認知症)
うつ病は、比較的急にもの忘れが進んだ場合などにより積極的に疑われ、適切な治療介入によって精神的な症状改善とともに認知機能の低下も多くの場合、改善する事が知られています。
この状態を放置すると認知機能はさらに低下し、本来の認知症を招くことにもなりますので、症状に気づいたら速やかにご受診されることをお勧めします。

また、高齢者のうつ病やもの忘れには身体的な疾患が背景にある場合もあります。その場合も、身体治療により症状の改善が見込めますので、早期の専門医への受診が望まれます。

治療について

うつ病の治療で最も大事なことは充分な休養をとることです。
うつ病の症状として物事を悲観的に考えすぎてしまう辛い時期には、重大なライフイベントの決断(退職や転居等)は回復後まで保留にして焦らずに心身を休める事が肝心です。
十分な睡眠や食欲、日中の不安感のコントロールも大事な時期になりますので、診察の際にはそれぞれのお困りごとをヒアリングするように努めます。

休養をとってもなかなか症状が改善しない場合には、薬物療法や精神療法による症状改善に取り組みます。

薬物療法では、ストレスによる脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の枯渇や不均衡を抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSA など)を用いて、改善する形で治療を行います。抗うつ薬の効果が出るのには「家族や周囲が本人の状態の改善に気づくのに一ヶ月、本人がそうしたご自身の変化に気づくのに一ヶ月半~二ヶ月かかる」といわれています。焦らずにしっかり良くしていけるようにお力添え致します。
その際、症状改善までの辛いお気持ちや不眠症状に患者さんからの希望に応じて、抗不安薬や睡眠導入薬も最小限に使用していきます。

このほか精神療法も薬物療法に併せて行っていきます。
精神療法は精神科専門医による心理療法のようなもので、日常のストレスとの向き合い方やお困りごとへの対処方法を一緒に考える形で相談しながら、徐々に生きづらさを改善していけるように働きかけます。
また認知行動療法により、患者さんご自身が陥りやすい思考や感情のパターンを一緒に考え、共有し、患者さんごとの生活の困りごとの心的な負担が少しでも軽くなるようにアプローチしていきます。

ストレスの背景も人それぞれですので、まずは気軽にご相談頂けると幸いです。